【2025年3月】米国上院銀行委員会、金融健全性および規制管理法案可決

2025年3月13日、米国上院銀行委員会は、規制当局が銀行監督の手段として評判リスクを利用することを禁止する法案を可決しました。
この法案は「金融健全性および規制管理法」と呼ばれ、仮想通貨業界をはじめとする金融機関が政府機関によって不当に排除されることを防ぐことを目的としています。

法案の背景と目的

この法案は、連邦規制当局が「評判リスク」を口実に特定の金融機関や業界を締め出すことを阻止するためのものです。
上院銀行委員会では、この法案を13対11で可決し、上院本会議への提出が決定されました。
特筆すべきは、民主党議員がこの法案を支持しなかった点です。
委員会の委員長であるティム・スコット上院議員（共和党、サウスカロライナ州）は、法案の意図について、「規制当局が監督の一環として評判リスクを利用する能力を排除し、連邦銀行機関の武器化を抑制する」と述べています。

ステーブルコイン規制法案の進展

上院銀行委員会は、ステーブルコインを規制する法案を進めることも2025年3月13日に可決しました。
この法案は、ステーブルコイン市場の健全性を確保し、消費者保護を強化することを目的としています

評判リスクとは？

連邦準備制度理事会（FRB）は、評判リスクを「真偽に関わらず、金融機関のビジネス慣行に関する否定的な評判が顧客基盤の減少、高額な訴訟、または収益の減少を引き起こす可能性」と定義しています。
過去には、銃器販売業者やペイデイ・レンディング業者などの特定の業界に対する銀行サービスの制限が問題視されており、今回の法案もその延長線上にあるといえます。

オペレーション・チョークポイントとは

過去に、銃器販売業者やペイデイ・レンディング業者など特定の業界が、銀行サービスの制限を受けた具体的な事例として、「オペレーション・チョークポイント」が挙げられます。
これは、2013年に米国司法省が開始した取り組みで、詐欺やマネーロンダリングのリスクが高いと見なされた業界への銀行サービスを制限することを目的としていました。
具体的には、銃器販売業者やペイデイ・レンディング業者がその対象となり、これらの業者は銀行からのサービス提供を拒否されるケースが増加しました。
これにより、合法的に営業している業者であっても、金融サービスへのアクセスが制限され、事業運営に支障をきたす事態が発生しました。
この政策は、過度な規制であるとの批判を受け、最終的に終了しましたが、特定の業界に対する銀行サービスの制限がもたらす影響についての議論を呼び起こしました。
さらに、2025年3月11日には、トランプ大統領が「オペレーション・チョークポイント2.0」と呼ばれる政策を撤回する大統領令に署名する見通しであると報じられました。
この政策は、バイデン前政権下で仮想通貨企業や関係者に対する銀行サービスの提供を拒否するものであり、業界から強い批判を受けていました。

これらの事例は、規制当局が特定の業界をリスクが高いと判断し、銀行サービスを制限することで、合法的なビジネス活動にも影響を及ぼす可能性があることを示しています。
そのため、規制の適用においては、公平性と透明性が求められています。

仮想通貨業界への影響

仮想通貨業界では、政府機関が金融セクターから同業界を締め出そうとしていると批判の声が上がっていました。
特に、「オペレーション・チョークポイント2.0」と呼ばれる規制手法が問題視されています。
これは、2013年の「オペレーション・チョークポイント1.0」と類似しており、詐欺やマネーロンダリングのリスクが高いとされる業界への銀行サービス提供を制限する政策と比較されています。
この問題は、仮想通貨企業が銀行口座の開設や維持に苦労しているという状況を背景に浮上してきました。
法案が成立すれば、仮想通貨企業を含む金融機関が規制当局による恣意的な監督から保護される可能性があります。

法案の修正と関連動向

委員会では、法案の修正案についても審議が行われました。
その中には、法案の一部を撤回し、大麻関連企業が銀行サービスを利用しやすくする「セイファー・バンキング法」の内容を組み込む提案も含まれていました。
また、連邦規制当局に対し、「銀行のリスクプロファイルとビジネスモデルに基づいた適正な規制」を求める修正案も可決されました。
一方、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOなどの銀行幹部は、規制違反が発覚した場合に銀行が数百万ドル規模の罰金を科せられるリスクがあることを指摘し、慎重な対応を求めています。

セイファー・バンキング法とは

セイファー・バンキング法（SAFER Banking Act）は、米国における大麻関連企業が銀行サービスを利用できるようにすることを目的とした法案です。
この法案は、連邦法で大麻が依然として違法とされているために生じる金融サービスへのアクセス制限を緩和し、業界の透明性と安全性を高めることを目指しています。

背景

多くの州で医療用および娯楽用の大麻が合法化されていますが、連邦法では依然として違法薬物と位置づけられています。
この法的ギャップにより、大麻関連企業は銀行口座の開設や融資の取得が困難となり、多くの場合、現金取引に依存せざるを得ない状況に置かれています。
これにより、盗難や脱税などのリスクが高まると指摘されています。

法案の主な内容

銀行サービスの提供
連邦規制当局が、大麻関連企業にサービスを提供する金融機関に対して、罰則を科すことを禁止します。
資金洗浄防止法の適用
大麻関連企業にサービスを提供する金融機関に対して、適切な資金洗浄防止対策を講じることを求めています。
規制の明確化
金融機関が大麻関連企業と取引する際の規制ガイドラインを明確化し、法的な不確実性を解消します。

進捗状況

この法案は、過去数年間にわたり複数回提出されていますが、連邦議会での可決には至っていません。
しかし、2025年3月13日、上院銀行委員会はこの法案を審議し、前進させることを可決しました。今後、上院および下院での審議が続く予定です。

期待される効果

セイファー・バンキング法が成立すれば、大麻関連企業は正式な銀行サービスを利用できるようになり、現金取引に伴うリスクを軽減できます。
また、金融取引の透明性が向上し、税収の適正な徴収や業界の健全な発展が期待されます。

考察

大麻産業の拡大に伴い、金融サービスへのアクセスは業界の持続可能な成長に不可欠です。
セイファー・バンキング法は、その障壁を取り除く重要な一歩となるでしょう。
しかし、連邦法と州法の間の法的整合性や、金融機関のリスク管理体制の強化など、解決すべき課題も残されています。今後の立法プロセスと業界の動向に注目が集まります。

今後の展望

下院ではまだ作業が必要とされており、セイファー・バンキング法案が成立するまでには時間がかかる可能性があります。
しかし、FRBのジェローム・パウエル議長も最近の議会公聴会で「銀行部門の解体について新たな視点で検討する時期が来た」と述べており、規制の見直しが進む可能性は十分にあります。

まとめ

評判リスクは銀行経営にとって重要な要素ですが、それを口実に規制当局が特定の業界や企業を締め出すことには問題があります。
今回の「金融健全性および規制管理法」法案は、そのような不透明な監督手法を制限し、金融機関の公正な競争環境を確保するための一歩となるでしょう。
一方で、規制が緩和されすぎると、実際にリスクの高い業界に銀行が無制限にサービスを提供することになりかねません。
そのため、規制当局と金融機関がバランスの取れた監督体制を築くことが求められます。
今後、上院および下院での法案審議がどのように進展するかが注目されます。
特に、仮想通貨業界やその他の金融機関にとって、この法案がどのような影響を及ぼすのかを慎重に見極める必要があるでしょう。